2014年8月10日、トルコで初の国民投票による大統領選挙が実施され、大方の予想通り、タイイプ・エルドアン現首相の圧勝という形で幕を引きました。(※大統領選の前評判に関しては、過去記事『エルドアン首相が大統領選に出馬へ』をご参照ください。)
AKPに対抗する最大連立野党が、元イスラム協議会(現イスラム協力機構)の事務総長を務め、トルコ文化やイスラム世界に関する多くの著作を世に出している学者のイフサンオール氏を候補に擁立したことは、イスラム保守層の支持の厚いエルドアン首相に対し一石を投じるものではありましたが、同時に、もともとの世俗派支持者の票が大きく割れてしまったのも事実のようです。
HDPはクルド系住民の多い東部を中心に勢力を広げており、今回その得票率を約10%にまで伸ばしてきたのは、クルド系政党としては大きな躍進とも言えます。実際に、「今回の選挙における実質的な勝利」とする見方もあります。トルコ初の公式なクルド人大統領候補となったデミルタシュ氏の、41歳という若さと人権活動家としてのクリーンなイメージ、人種差別解消への期待の高さも大きいでしょう。
全体で75%という投票率は日本に比べたら非常に高く、トルコ国民の政治参加への意識の高さが窺えます。しかし実は、過去10年間にトルコで行われた選挙の中では今回の投票率は最低だった、という驚くべき事実もあります。(ちなみに、3月末の統一地方選挙の投票率は約90%でした。)
その原因のひとつとして、今回の選挙がバケーション・シーズンであったため、帰省や旅行で自分の投票所から離れてしまっているケースが多かった、という見方もあります。また、3月に行われた統一地方選挙でのAKP圧勝に続き、今回もエルドアン氏勝利の予測が有力で、一部の世俗派・反AKP有権者には諦念のようなものもあった印象を受けます。現地メディアやSNSでは「ボイコット派」に関する様々な意見が飛び交っていました。
いずれにしても、二回目の選挙を待たず過半数の支持を得たエルドアン氏は、8月28日を以て大統領に就任します。
現在は、エルドアン氏が大統領就任後の首相後継者が誰になるのか、また、法改正による大統領権限の強化など、その動向が気になるところです。
開票開始後の状況を見て、海外メディアは以下のように報じています。(http://haber.sol.org.tr/medya/dis-basinda-cumhurbaskanligi-secimi-yorumlari-haberi-95683)
AFP通信;エルドアン首相の圧勝はほぼ確実とみられる。この得票率のまま進めば、エルドアン氏はトルコ初の国民に選ばれた大統領となり、彼の「新生トルコ」構想は現実になるだろう。圧倒的多数の支持を得た勝利によりエルドアン氏の強いリーダーとしての位置付けは更に強まるものと思われる。エルドアン氏は首相の次は実行力のある大統領となることを宣言した。
AP通信;エルドアン氏はトルコを分裂させる様相を呈してきた。批判側は彼について、「権力を一手に握り、人々の信仰心に付け入り、徐々に強権化していく指導者」として見ている。エルドアン氏にとって重要なのはこの選挙で獲得する得票率だ。もし統一地方選よりも低い得票率となった場合、それは彼の人気の低下を意味することにもなりうるからだ。批判側は、彼が選挙活動をアンフェアな形で展開し、自己資産でメディアを買収したと主張している。
アルジャジーラ;AKPは統一地方選挙にて圧倒的勝利をものにした。根強い首相人気はここ数か月の展開からもさしたる影響は受けていない模様だ。エルドアン氏は強い大統領となる意志を公言してはばからない。選挙活動を通して、エルドアン氏は実行力のある大統領というポジションについて言及している。それというのも、トルコにおける大統領とはほとんど象徴的なものだからだ。評論家は、彼が大統領選で勝利した場合、国の統制を強める強権的かつ保守的な指導者となると懸念している。
デイリー・メール;非公式の数字によると、エルドアン氏が選挙で勝利し、投票による最初の大統領となった。
ハッフィントン・ポスト;ベキル・ボズダー法相はツイッターでエルドアン氏がトルコの第12代大統領となったと発表した。
長期政権の道が開けたことが、国家の安定とさらなる繁栄をもたらすのか、はたまた強権主義による政治の不透明や国内世論の分裂に繋がるのか。
トルコの政治状況に世界が注目しています。
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